横浜地方裁判所 昭和60年(行ウ)43号 判決 1988年3月16日
第四二号事件原告
半井康幸
同
半井幸子
第四三号事件原告
半井愛
両事件被告
大和市長
井上孝俊
右訴訟代理人弁護士
橋田宗明
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告らに対し、昭和六〇年五月一日付けの同年度固定資産税都市計画税(土地)納税通知書によりなした各課税処分はいずれもこれを取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は、原告半井康幸及び同半井幸子(以下、まとめて「原告兄妹」という。)に対し、原告兄妹の共有に係る別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件(一)土地」という。)につき、原告半井愛(以下「原告愛」という。)に対し、原告愛の所有に係る別紙物件目録(二)記載の各土地(以下「本件(二)土地」という。)につき、それぞれ昭和六〇年五月一日付けで、同年度固定資産税都市計画税(土地)納税通知書をもって課税した(以下、まとめて「本件各課税処分」という。)。
2 原告兄妹及び原告愛(以下、まとめて「原告ら」ということがある。)は、これを不服として、それぞれ、昭和六〇年六月一八日付けで、被告に対し、異議申立てをしたが、被告は、同年七月九日付けで、右各異議申立てをいずれも棄却した。
3 しかしながら、本件各課税処分には、次の違法があるから、本件各課税処分の取消を求める。
すなわち、被告は、本件(一)土地及び本件(二)土地(以下、まとめて「本件各土地」という。)につき土地区画整理事業が完成したという理由だけで、いずれの土地についても地方税法(以下「法」という。)附則一八条二項二号の規定する「地目の変換等」があったものとして、同号イの規定に基づき比準課税標準額を用いて同六〇年度の課税標準額を算出しているが、本件各土地は、昭和五九年度と同六〇年度とでは、その形状になんら変更がないのであるから、右事業が完成したという理由だけで右附則の適用をした昭和六〇年度の課税標準額には誤りがあり、本件各課税処分はいずれも違法である。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1、2項の事実は、いずれも認める。
2 同3項の事実のうち、被告が、本件各土地につき、いずれも法附則一八条二項二号の規定する「地目の変換等」があったものとして、それぞれ同号イの規定に基づき比準課税標準額を用いて同六〇年度の課税標準額を算出したことは認め、本件各課税処分が違法であるとの主張は争う。
三 被告の主張
1 本件各課税処分に至る経緯
(一) 訴外大和市南部第二土地区画整理組合(以下「訴外組合」という。)は、昭和四七年六月三〇日、神奈川県知事の認可を得て設立された。
(二) 訴外組合は、原告らに対し、昭和五四年八月一三日付けで、原告兄妹が共有していた別紙従前地目録(一)記載の各土地(以下、まとめて「本件(一)従前地」という。)及び原告愛が所有していた別紙従前地目録(二)記載の各土地(以下、まとめて「本件(二)従前地」という。)につき、それぞれ仮換地指定をした(以下「本件各仮換地指定」という。)。
(三) 訴外組合は、昭和五九年二月一三日、神奈川県知事より換地計画について認可を得て、同月一五日、本件(一)従前地に対し本件(一)土地を、本件(二)従前地に対し本件(二)土地を、それぞれ換地する旨の換地処分をなし、それを受けて同県知事が、同年三月一九日、換地公告をなした(以下「本件各換地処分」という。)。
(四) 被告は、本件(一)従前地及び本件(二)従前地(以下、まとめて「本件各従前地」ということがある。)について昭和五四年八月一三日付けでなされた本件各仮換地指定の前後で区別せずに、原告らに対して昭和四八年度から同五九年度までの固定資産税及び都市計画税の課税処分をなしたが、これは、本件仮換地指定後も
(1) 南部第二土地区画整理事業区域内の土地所有者の中には仮換地された土地の使用収益をなしている者とそうでない者とがあったこと。
(2) 訴外組合が仮換地指定をした土地の部分的変更をなしうる状況にあったこと
(3) 訴外組合と前記土地所有者との間で道路の角切り部分につき協議中のところがあったこと
(4) 道路の幅員が建築規制に関する法規より狭いところがあったため、訴外組合は、被告都市計画課の指導を受けてその拡張を予定していたが、それにより換地自体に影響が生じる状態にあったこと
などの事情を考慮した被告が、本件各仮換地指定後も法三四三条六項のみなし規定の適用をしなかったからである。
2 本件各課税処分の適法性
(一) 法附則一八条一項によれば、宅地に係る昭和六〇年度から同六二年度までの固定資産税の課税標準額は、前年度の固定資産税の課税標準額に上昇率の区分に応じた負担調整率を乗じて得た額とするものとしており、評価替えに伴う税負担の上昇緩和の措置がとられているところ、同条二項二号イによると、昭和六〇年度において新たに固定資産税を課することとなる宅地等または同年度に係る賦課期日において地目の変換等がある宅地等については、右「前年度の固定資産税の課税標準額」とは当該宅地等の比準課税標準額をいうと定められている。
そして、右「地目の変換等」とは、法附則一七条一項三号によれば、地目の変換その他これに類する特別の事情をいうとされ、右「比準課税標準額」とは、同項五号によれば、土地について、当該土地に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格に、当該土地に類似する土地で昭和五九年度に係る賦課期日に所在するものの同五九年度課税標準額を当該類似土地の同六〇年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格で除して得た数値を乗じて得た額であるとされている。
(二) 本件各土地については、昭和五九年三月一九日に換地公告がなされ、前記土地区画整理事業が完成した。これにより、右事業対象地域は都市計画区域内の土地として公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進が図られ、その結果、本件各土地の区画形質は変更された。これは土地区画整理法二条一項により、土地区画整理事業が「土地の区画形質の変更」を目的としている以上当然のことであり、現実にも、本件各従前地からは二メートルに満たない巾の私道を通って公道に出ていたが、本件各土地は五メートル巾の公道に面した土地となっている。
これは、前記「地目の変換等」に該当する。
(三) そこで、被告は、本件各土地に対する昭和六〇年度の課税標準額をそれぞれ次の計算で求めた(別紙計算書(1)ないし(3)記載のとおり)。
<省略>
(四) 被告は、以上の計算によって得られた本件各土地の昭和六〇年度課税標準額に基づいて、本件各課税処分をなしたものであり、本件各課税処分は適法である。
四 被告の主張に対する原告らの認否及び反論
1 被告の主張1項について
(一) 同(一)ないし(三)の事実はいずれも認める。
(二) 同(四)の事実のうち、被告が昭和四八年度から同五九年度までの固定資産税及び都市計画税の課税処分を本件各従前地についてなしたことは否認し、その余は不知。
2 被告の主張2項について
(一) 同(一)は認める。
(二) 同(二)の事実のうち、本件各土地の区画形質が変更され、これが「地目の変換等」に該当するとの主張は争い、その余の事実は否認する(但し、本件各土地について昭和五九年三月一九日に換地公告があったことは認める。)。
本件各土地には、法附則一七条一項三号にいう「地目の変換その他これに類する特別の事情」はなかったものである。
右の、「その他これに類する特別の事情」とは、土地の浸水、陥没、隆起、土砂の流入、堆積、埋没、表土の流出、地滑り等によって土地の区画形質に著しい変化があった場合をいうべきものである。すなわち、「特別の事情」とは、土地の価格に大幅な増減を招来した原因が土地自体に内在する場合をいうと解すべきところ、土地区画整理が従前の土地に照応している土地を換地するものである以上、換地は土地自体にはなんらの変化を及ぼすものではなく、原告らが、本件各仮換地指定後から本件土地の使用収益を継続しており、その利用状況等に何ら変化がないことからみても、土地区画整理事業の完成による区画形質の変更は、「その他これに類する特別の事情」に該当しない。
したがって、被告が、本件各課税処分をなすにあたって法附則一八条二項二号イの規定を適用したことは誤りである。
(三) 同(三)のうち、被告が別紙計算書(1)ないし(3)のとおりの計算をしたこと及び昭和六〇年度の本件各土地の一平方メートル当たりの価格が六万円であることは認め、その余は不知。
(四) 同(四)は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一「被告の主張」欄1項(一)ないし(三)のとおり、昭和四七年六月三〇日設立の訴外組合が同五四年八月一三日付けで原告ら所有の本件各従前地について本件各仮換地指定を行い、同五九年二月一五日本件各換地処分を行ったこと、同年三月一九日本件各換地処分の公告がなされたこと、請求原因1項、3項のとおり被告は右換地処分後の本件各土地につき、法附則一八条二項二号の規定する「地目の変換等」があったものとして、同号イの規定に基づき比準課税標準額を用い、別紙計算書(1)ないし(3)のとおりの計算により本件各土地の昭和六〇年度の課税標準額を算出した上、本件各課税処分をしたことは当事者間に争いがない。
そして、<証拠>によれば、被告は、本件各課税処分対象年度以前の昭和四八年度から同五九年度までの固定資産税及び都市計画税の課税処分については本件仮換地指定の前後で区別することなく全部本件各従前地についてこれをなしていたこと、被告において本件各仮換地指定後も本件各従前地につき課税処分をなしたのは、「被告の主張」欄1項(四)の(1)ないし(4)記載のとおりの事情があったため、法三四三条六項の規定を適用せず、換地完了まで原告らを本件各土地の所有者とみなすことをしなかったためであること、その結果本件各課税処分の一年前の年度である昭和五九年度分の固定資産税の課税標準額は、本件(一)従前地分が合計一四四万二七〇一円、本件(二)従前地分が合計一四八八万六一八〇円であるのに対し、本件各換地処分後の昭和六〇年度の本件(一)土地の同課税標準額は三二三万〇七一九円、本件(二)土地のそれは合計二五九四万八〇三五円となり、大幅な上昇になることが認められる。
二そこで、本件各土地につき、昭和六〇年度に係る固定資産税の賦課期日たる昭和六〇年一月一日(法三五九条)に法附則一八条二項二号の規定する「地目の変換等」があった場合に該るか否かについて検討する。
1 前説示のとおり昭和五九年二月一五日に本件各従前地に対して本件各土地がそれぞれ換地され、同年三月一九日換地の公告がなされて、本件土地区画整理事業が完成したところ、証人深谷君雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件(一)従前地のうちの地番五五五六番一〇の土地及び本件(二)従前地は、別紙図面(1)のとおり公道とはかんがい用水路(地番五五五六番四の土地)で隔てられ、僅かに本件(一)従前地のうち残る地番五五五六番九の土地を一部として開設されていた幅二メートルに満たない私道により公道に通じている土地であったが、換地された本件各土地はそれぞれ五メートル幅の公道に直接面する土地になった(別紙図面(2)のとおり)ことが認められ、これに反する証拠はない。
右事実によれば、本件各土地は、本件各換地処分により土地の区画、位置、形状等が変更され、その区画形質が変更されたものというべきであり、右は法附則一七条一項三号にいう「地目の変換その他これに類する特別の事情」に当たることが明らかである。元来、土地区画整理事業とは、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、法律で定めるところに従って行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう(土地区画整理法二条一項)のであり、対象地の区画形質の変更は土地区画整理の本質的要素なのである。もっとも、土地区画整理による換地処分がなされた場合、換地は従前の宅地とみなされるが(土地区画整理法一〇四条)、それは従前の土地について存した権利関係がすべてその同一性を保持して換地に移行することを意味することであって、従前地の事実状態、地目等までがそのまま換地に適用されるという意味ではない。このように、土地区画整理により対象土地の区画、形状、土質等は改良、変更されるのであり、本件各土地についても現にそうされたのであって、それは、付近の施設、設備等の変更による地価の上昇等土地自体に内在しない原因による価格の増減等とは異なり、法附則一七条一項三号にいう「地目の変換等」に当たるというべきである。
そして、本件各換地処分の公告が昭和五九年三月一九日になされたのであるところ、固定資産税の賦課期日は各年の一月一日である(法三五九条)から、昭和六〇年度に係る固定資産税の賦課期日たる昭和六〇年一月一日に右「地目の変換等」があったというべきである。
2 原告らは、換地処分が従前地に照応している土地を換地するものである以上、それは土地自体には何ら変化を及ぼさないものである旨主張するが、土地自体に何らの変化を来たすことなく土地区画整理を実行することは不可能であり、土地区画整理法八九条にいう照応原則も、同条一項にいう換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等の諸要素を総合的に考慮して従前地と換地との照応を要求するものにとどまり、土地自体に変化をもたらさないことを意味するものではない。そして、本件各換地処分によって土地の区画形質の変更がなされている以上、前記「地目の変換その他これに類する特別の事情」に当たることは明らかである。
なお、原告らの右主張は、照応原則により従前地の価格と換地の価格とが照応することが要求されるとした上、本件各従前地の価格と本件各土地の価格とに異同があることを問題とする趣旨を含むかもしれないので、念のためこの点について検討する。
たしかに照応原則は、従前地価格と換地価格の照応を要求する面のあることはいうまでもないが、土地区画整理事業がある程度の期間を要することからすれば、現実の従前地価格と現実の換地価格とを同一時点で判定してその照応の有無を決するということは不可能であり、原則として整理事業の開始時点での従前地価格とその時点で予想できる土地区画整理事業終了時の換地の見込価格とが照応するようにすることをもって足りるというべきである。むしろ、このような計画上の見込価格との照応を前提にしなければそもそも土地区画整理事業の計画を立てること自体ができないといわなければならないのである。価格面での照応原則の要求する内容は右のとおりに理解するのが相当である。したがって、土地区画整理事業が完了した時点の現実の換地価格と当初の見込価格たる換地価格(この価格は、原則として事業開始当初の従前地の価格と等しい。)とが当然に一致するわけではなく、かつ、そのことは照応原則違反を来たすことでもないというべきである。のみならず、原告らが問題としているのは、昭和五九年度の本件各従前地に対する課税標準額とその翌年度の本件各土地(換地後の土地)に対する課税標準額との異同であると解されるところ、前認定のとおり既に昭和五四年に本件各仮換地指定がなされて本件従前地の状況には変更が加えられており、右の昭和五九年度の本件各従前地の課税標準額というのは土地区画整理がなされなかったとした場合を想定した上での本件各従前地の昭和五九年度の想定価格であるから、右価格と現実の換地たる本件各土地の昭和六〇年度の価格とはなおのこと一致するわけではなく、かつ、そのことが照応原則違反を来たすものでないことも明らかである。一般に月日が経過すればする程、換地価格は、土地区画整理事業が行われなかったとした場合の将来的な見込としての従前地の想定価格より高額となるが、それは、土地区画整理事業によって土地の利用の増進が図られ地価の上昇率が高くなることが通例だからであり、そのことは原告らを含めた換地を受けた者に十分な便益がもたらされたことを意味するわけである。以上により、いずれにしても照応原則の見地から土地価格の不変をいう原告らの主張は採用できない。
3 また、原告らは、本件各仮換地指定の時から本件各土地の使用収益を継続しており、昭和五九年度と昭和六〇年度においてその利用状況等に変化がないことも主張しているところ、弁論の全趣旨によれば、たしかに本件各換地処分後の本件土地とその前年度の仮換地とは現況においてはほとんど変わりがなかったと認められる。しかし、仮換地指定処分とは従前地の使用収益を停止させる代わりに仮換地上に同様の使用収益権を付与するものに過ぎず、所有権はなお従前地に存続するものであり、土地等の所有者(登記簿等に所有者として登記されている者)に課せられる固定資産税及び都市計画税(法三四三条、七〇二条)の課税処分も仮換地ではなくなお従前地についてなされる建前が採られている。そして、現実にも前記認定のとおり昭和五九年度までの固定資産税及び都市計画税は本件各従前地についてなされ、本件各換地処分がなされた昭和六〇年度になってはじめて本件各土地についてなされたのであるから、原告らが本件各仮換地指定後から継続して本件各土地を使用収益しているとしても、法律的には昭和六〇年度に従前地から換地へと「地目の変換等」があったものといわなければならない。なお、法三四三条六項は、固定資産税が使用収益税の性格をも有することを考慮して、仮換地に対応する従前地の所有者として登記されている者を仮換地の所有者とみなすことができる旨を規定し、これにより従前地ではなく仮換地について右税を課する途を用意しているが、右規定は、仮換地指定がなされた場合には常に仮換地について課税しなければならないことまで定めているものではなく、前記認定のように「被告の主張」欄1項(四)(1)ないし(4)に記載のとおりの事情があるような場合には仮換地ではなく従前地について課税し、換地処分の公告がなされてから換地について課税することができる旨を定めていると解するのが相当である。したがって、本件各換地処分があるまで本件各従前地について課税し、本件各換地処分後に本件各土地について課税することに違法はなく、そのために本件各換地処分の前後で地目の変換等があったとされることに何らの不都合もない。原告らの主張は、昭和六〇年度の前後で課税の対象が従前地から換地に変わったことを看過し、右の前後で課税の対象に変わりがないとの誤った前提に立つところによるものであり、採用できない。
4 以上のとおり、本件各土地については、法附則一八条二項二号の規定する「地目の変換等」があったものというべきであり、同号イの規定に基づき比準課税標準額を用いて昭和六〇年度の課税標準額を求め、これに基づいてなされた本件各課税処分に原告ら主張の違法はない。
三以上によれば、原告らの本訴各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官川上正俊 裁判官岡光民雄 裁判官竹田光広)
別紙物件目録(一)、(二)<省略>
別紙従前地目録(一)、(二)<省略>
別紙計算書(1)〜(3)<省略>
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